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2014年11月23日レクチャー&ピアノリサイタルに向けて(1) Ichiro Kaneko 2014年 8月 6日(水) 23:05
 ショパンは素晴らしい作品をたくさん生み出したことは誰でも知っている。しかし、ショパンが大好きであるという人に、具体的に、どういった点で素晴らしいのかということを説明してもらおうとすると、明確な答はなかなか返ってこない。それはショパンの作品には優れた点がたくさんあるからであるが、その1つに和声の美しさと多用さがある。それについて少し述べてみたい。
 和声とは和音の連結によって人間の情緒に対し、緊張感の揺らぎや色彩の変化などを想起させる諸機能を意味する。そういう意味で和声をとらえれば、ショパンが作曲を始めた頃、すでに和声については200年以上の歴史があった。そこでショパンは、旧来の和声に対してポーランド土着の民謡の元となっている長調、短調以外の旋法(教会旋法を含む)を用いたが、マズルカなどの民族的な舞曲以外では、そのウェイトはそれほど大きいとは思わない。もちろん、それが果たしたショパンの語法の多用さはあるのだが、彼の素晴らしいところは、旧来の長調、短調という旋法の中で、それまで用いられてきた語法を徹底的に追求したことにある。
 現在の我々が和声進行と感じられる音楽が確立したのは多少乱暴に言えば1600年以降と考えて良いが、その当時は、楽器の調律上の制限もあり、転調は極めて限られていた。ところが、調律方法が改善され、あらゆる調に転調が可能となった1700年代初頭以降、さまざまな転調技術が生み出された。これは和声の揺らぎの拡張であるが、それをショパンは極めて洗練された方法で作品に用いた。もちろん、転調の可能性については、ベートーヴェンなども様々な工夫をしたし、ショパンと同時代のシューマンやリストもそうである。しかし、ショパンは、極めて教科書的な、奇をてらわない方法で表現した。その例がソナタ第3番ロ短調作品58の1楽章や夜想曲ト長調作品37の2などに見られる。これらの作品には、短い時間の中で、長調12種類、短調12種類の計24種類の調のほとんどすべてが含まれている。これは、言い方を変えれば、曲のほとんどの部分が元の調と異なるということであり、それは、最後の部分を聞かない限り調が判定しにくいということを意味する。たとえばシューマンの幻想曲作品17の第1曲はハ長調であるが、ハ長調の主和音が出現するのは曲の開始の10分以上経った曲の終結部分であることも意味は同じである。「最後の部分」というのは、最初の部分では調が判断できないということである。これは、ショパンならバラード第1番、第4番、ソナタ第2番第1楽章の冒頭などを聴けばすぐにわかることである。
 たとえばノクターンの作品37-2では、転調が複雑に、短時間に連続して行われ、一つの調にとどまる時間は中間部分以外ではほとんどない。それでも、元の調と転調後の調については明確な関連を見出すことができるが、幻想ポロネーズ作品61の一部にはそれすら困難な部分がある。一方でショパンは土着の旋法(教会旋法など)を露骨に用いることは、年をとるごとになくなっていったように思われる。

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