開場の11時半頃になると続々とお客さまがいらして開演時間にはほぼ満席となっていました。
しかしながら京都大阪方面からのJRが、あろうことか、沿線火災のため止まっているとの連絡を受けて、スタッフがバタバタしておりました。
そんな中、私は京都のみっこさん(ルパさん)と6年ぶりの再会をはたし、少し遅れるとメールが入っていたひるちゃんもなんとか間に合い、ほっとしていました。
止まってしまった電車に乗っていらした方々はどんなにかやきもきしたことでしょう。この火災の消火活動のため13本が最大約1時間35分遅れ、約1万3500人に影響が出たそうです。残念ながらすべてのお客さまを待つことができずに、10分遅れで開演となりました。
オープニングは私のピアノ バッハのプレリュードから始まりました。この曲は、2月に封切られた映画「人間失格」で大貫妙子さんが歌っていたグノーの「アヴェ・マリア」の伴奏曲だと頭にあり、今回はフットペダルを使い思い切り抑揚を付けたのでバッハらしからぬ演奏になりました。このオープニングは「朗読劇」の前振りですからお許しを、、。
暗転の中、戸川純の「玉姫様」が流れ、紫色のドレスにストールをまとったジョゼ(こごみん)登場!
「わっ。橋だあ」「わっ。海だ」「ジョゼ、窓閉めんかい!また苦しィなるくせに。遊ぶなって。阿呆」
「ああ。はじめてやなァ….」ジョゼは満足してつぶやき
恒夫は「もっと便利になってる車、あるデ」
「ちがう。旅行のこをアタイはいうてるねん。こんな綺麗な景色、はじめてや」「僕かてここは、はじめてや」
「あんたのはじめてとアタイのはじめてとは質が違う。アタイのはじめては中身濃いのんや。アタイ海みたん、これが二度目やもん」
「いばるなって。新婚旅行ははじめてやないか、どっちも」「ふふん」「ジョゼ、お前、誰かと旅行したこと、あんのか」
「ご想像におまかせします。アタイはもてたんやから。管理人とはちがう」「くそう」ジョゼが恒夫のことを「管理人」とよぶのは、とびきり上機嫌のときである。
(中略)
夜ふけ、ジョゼが目がさますと、カーテンを払った窓から月光が射しこんでいて、まるで部屋中が海底洞くつの水族館のようだった。
ジョゼも恒夫も魚になっていた。死んだんやな、ジョゼは思った。
(アタイたちは死んだんや)
恒夫はあれからずっとジョゼと共棲みしている。
二人は結婚しているつもりでいるが、籍も入れてないし、式も披露もしていないし、恒夫の親元にも知らせていない。
そして段ボールの箱にはいった祖母のお骨もそのままになっている。
ジョゼはそのままでいいと思っている。
長いことかかって料理をつくり、上手に味付けをして恒夫に食べさせ、ゆっくりと洗濯をして恒夫を身ぎれいに世話したりする。
お金を大事に貯め、一年に一ぺんこんな旅にでる。
(アタイたちは死んでる。「死んだモン」になってる)死んだモン、というのは屍体のことである。
魚のような恒夫とジョゼの姿に、ジョゼは深いためいきを洩らす。
恒夫はいつジョゼから去るか分からないが、傍にいつ限りは幸福で、それていいとジョゼは思う。
そしてジョゼは幸福を考えるとき、それは死と同義語に思える。
完全無欠な幸福は、死そのものだった。
(アタイたちはお魚や。「死んだモン」になった)と思うとき、ジョゼは(我々は幸福だ)といってるつもりだった。
ジョゼは恒夫に指をからませ、体をゆだね、人形のように繊い、美しいが力のない脚を二本ならべて安らかにもういちど眠る。
はじめと最後を書き出してみましたが、こごみん(ジョゼ)と音響、映像、進行など何役もされていた演出のともりんさん(恒夫)のセリフの掛け合いが自然で本当に良くって、とても感動しました。
そして気がつくと泣いていました。
私はこの後に大事なお仕事、この朗読劇のラストを飾るこごみんの歌の伴奏があるのを忘れるほど、ジョゼの世界に入り込んでいたのです。
それでも、こごみんが台本を閉じ最後のセンテンスの朗読をはじめると我に返り上着を脱いで準備しました。
こごみんが歌ったのは、中島みゆきさんの「二隻の舟」です。
「難しいこと望んじゃいない、ありえないこと望んじゃいない」
「時流を泳ぐ海鳥たちはむごい摂理をささやくばかり」
「私たちは二隻の舟、ひとつずつのそしてひとつの~」
この二隻の舟は、ジョゼと恒夫のようでもありますが、私はこごみんと娘さんを思い浮かべずにはいられませんでした。
深い意味を持つすばらしい詞で、伴奏も難しかったです。
なんとか無事に?演奏を終えると暗転。 大きな拍手の中エンディング曲が流れ、こごみんと並んでおじぎをしました。
暗転―音楽―おじぎ、この一連の流れがとてもよかったと思います。
ともりんさん、照明のkontaちゃんありがとう!
こごみん、本当に本当に素晴らしかったよ!
そして、お客さま、プロデューサー マダムン、タバスコさんはじめ、式子さん、うらないしさん、やっちゃん、ゆんちゃん、応援していてくれたみなさん、ありがとうございました!!(つづく)