2008 06月 13日

父はとても頑張りました。


昨日もたくさんのコメントありがとうございました。
他人の闘病記なんてつまらないでしょうに
父の事、少しでも読んでくださる方が居て嬉しいです。
昨日の続きを書きます。
長くなると思うので適当に読み流してください。



6/7(土)
私が到着するのを待っていたかのように先生が部屋に入り
「昨日の夜から体調が急変しました。
熱も高いし肺炎を併発している可能性があるので
レントゲンと血液検査をさせてください。
もし肺炎になっている場合、かなり危険な状態です。
今日明日が山場です・・・・」


・・・・・先生の顔をボ~っと眺め、言葉を理解するのに時間がかかった。


検査結果が出るまで父の身体をさすり続け、声をかける。
苦しそうに全身で息をしながら、見えない目を開けようとしているのが解った。
私の声に反応して涙を流す父。
私は一生懸命「純子だよ、わかる?お父さん、純子だよ」と何度も声をかける。
弱い力ながらも手を握り返してくれた父。


検査結果が出て、
「やはり肺炎を併発していると思います。
何とか今日明日を乗り越えられたとしても、長くは期待できない危険な状態です」
先生の話を呆然と聞く。


抗生剤の点滴投与が始まった。

兄・夫・名古屋の叔母に連絡を入れる。
兄から四国の叔母に連絡を入れてもらうよう頼む。


病院の丸椅子に座り父の身体をさすり続ける。
悶絶する父の顔を辛くて可哀想で見ていられない・・・
私が泣いてばかりいると、父がうわ言のように声を出す。
きっと「自分の為に泣かせてごめんなぁ」と言ってくれてる気がした。
私の涙が父の手や顔にポタポタ落ちる。
父も泣いているようだった。

今しか言う時は無い。
「おとうさん、大切に大切に育ててくれて、ありがとうねぇ」
「なんにも恩返し出来ずに、ごめんねぇ、ありがとう」
私は父への感謝の気持ちを言葉にした。
父の目から涙がつたう。


兄・夫・叔母が到着し現状を伝える。
父は3人がかけてくれる声にも少し反応する。
兄は一旦職場へ行き、父を囲んで叔母達と話す。
「お父さん、阿波踊りの歌を歌ったんやって」と話していると
父は手を挙げ声を出す。
唄いたいん?踊りたいん?
若い頃は一晩中、連の先頭で踊りとおしたんやもんねぇ、おとうさん。

叔母と夫が帰り、また父と2人きりになると涙がこぼれる。
日が暮れた寂しい病室で、涙が止まらず困る。

看護師さんに管で喉の痰を抜いてもらうのが苦しそうで見ていられない。
父が苦しそうに声を上げる。
血痰がゴボッと取れた。肺から出血して、かなり危険なのが解った。
「逢わせたい方がいらっしゃったら連絡して下さい」と言われる。


熱だけでも引いて欲しいが血圧が低すぎて解熱剤投与が出来ないとの事。
一日に何度も何度もアイスノンと氷枕を交換する。

昼間からずっと丸椅子に腰掛け、身体を丸めて父を撫で続けて腰が痛くなってきた。
用意して下さった簡易ベッドに横になろうとすると、父が苦しそうな声を出す。
手を挙げ私を探しているようだ。
すぐに丸椅子に戻り、手を握り声をかけると安心する様子。
一晩中、父の身体を撫で続ける。

夜中の二時頃から一時間近くしゃっくりが止まらず心配。
土日は半分しか居ない病院スタッフ。
人が少ない分、余計に不安が押し寄せる。

明け方、兄が来てくれる。
兄も声をかけ、手を握る。段々握り返してくれなくなる。
父の苦悶する姿を兄も見ていられない様子。

長い長い不安な夜が開け、兄が家に帰る。
私は結局、一晩中丸椅子で父の顔を泣きながら見ていた。



6/8(日)
朝8:30、先生が顔を見せてくれる。
私は安堵で泣き崩れそうになるも気丈に先生とお話をする。

一時間もしゃっくりが止まらなかった事、手足がむくんでいる事、
血痰が出た事、私達の声に涙で反応してくれる事など、お伝えする。

「なんとか今日も持ちこたえて欲しいなぁ」先生がボソッと仰る。
2人で祈る気持ちで父を見つめる。
「少しは寝られましたか?」と私を気遣ってくださる。
「手を放すと父が寂しがるから・・・」と言うと、うん、うんと話を聞いて励ましてくれる。
呼吸音がおかしいのでまた痰をとってもらう。

今日は救命救急の当直なので、また手が空いたら顔を出しますね。
と言うそばから救急車の音がする。
先生が行ってしまうと、また不安が押し寄せる。

看護師さんが代わる代わる点滴を変えたり、オムツの交換や痰をとってくれる。
熱は相変わらず40度から引かない。
氷枕がすぐに熱くなる。

午前中に叔母と夫が来てくれる。
みんなの声がすると、またほんの少し反応するようなしないような・・・・
兄もまた駆けつける。

みんなが居るうちに少しは横になるように言われるが、父の傍に居たい。
お昼にみんなが帰ってからも、一人父の手を握り身体を撫でる。

高熱で頭や首が焼けるように熱い。
そのくせ段々、手足が冷たくなってきて不安に包まれる。
一旦引いた手足のむくみ。
このまま快方に向って欲しい。

兄が来てくれたので夕方のおにぎりを買いに行く。
久しぶりに外へ出た。
私はおにぎりひとつ食べると、ずっと続いてる下痢でまたお腹がペチャンコになる。

夕方から兄が仕事に行く。
夜、先生が顔を見せてくれる。
この頃には手足が紫色で冷たい、先生に診て頂くと
酸素が先端まで回らず血液が循環していないのだと説明された。
血圧はもう低すぎて測定不能になった。
氷枕を変える時、耳や首がものすごく熱いので
「可哀想に・・・・・」と私がつぶやくと先生も「うん・・・・」と頷き
一緒に交換してくださる。

「2日も泊まって身体、大丈夫ですか?」と気遣ってくださる。
少し空元気で明るく雑談。
先生が帰ってしまうと一気にまた不安な夜が始まる。

看護師さんが口の中の痰だけ取ってくれる。
もう苦しむ力もなくなり、父は何にも反応してくれなくなった。

ただただ苦しそうに全身で呼吸する。
父の頑張りに涙が止まらない。
必死で生きようとしている父の頑張りを目に焼き付けようと、
私は目を逸らさず父を撫で続けた。

丸2日、丸椅子に腰掛けている私に看護師さんが背もたれのある椅子を用意して下さった。
もしかして、もう少し長期戦になるのかな?と、少しだけ期待した。

昨日はやたら大きく揺れていた心電図の波。
身体全体で呼吸しているから心拍数も呼吸数も正常値をはるかに超えていた。
それが段々と小さくなり、今はいつ停まっても不思議でない状態になっている。

静かで寂しい病室で、ひたすら父の顔と心電図を交互に眺める2日間。
私は何時間もトイレにも行かず父を見ていた。
なんとか朝まで頑張って欲しい!

夜11:00を回った頃から看護師さんの出入りが多くなる。
点滴を変えたり氷枕を変えたりしてくださる。

心電図の酸素の値が消えた・・・・・
もう読み取り不能になったのだと理解し、身体が震えた。
心拍数と呼吸数の値がどんどん小さくなる。
冷たくなった手足を撫で続ける。

夜11:33その時は来た。

ドラマでしか見たことの無い、心電図がただの一直線になってしまった。
ツー・・・・・っと鳴り響く音が耳に残る。
看護師さんに
「お別れをしてください」と言われる。

私は父に「頑張ったね、しんどかったね」と声をかけ
父の頬にキスをした。


仕事で運転中の兄に連絡して事故でも起こしたら・・・・
躊躇し、夫と叔母にだけ連絡を入れた。

20分後、先生が自宅から駆けつけてくださり
「お兄さんに連絡はとれましたか?」と聞かれ
「運転中に気を動転させたくないので、全部ひとりでやります」と答える。
先生は「そうですね・・・運転中ですもんね・・・」と言い
死亡確認を始めた。


私一人で死亡確認を聞く。
「6/8 午後11:56 死亡が確認されました」
先生の声が胸に響く。
私は父と先生に深くお辞儀をした。


「身体をお清めしますから一旦席をはずしてもらえますか?」と言われ
携帯が使えるデイルームへ。
迷った末、寂しがり屋の父を一人で自宅に連れて帰るのが躊躇われ
やはり兄に連絡を入れた。

兄は「純ちゃんひとりに立ち合わせて辛い思いさせたね、ごめんね」と言ってくれた。
葬儀屋に連絡を取り1:20頃、父を迎えに来てくれると言う。


デイルームまで先生が様子を見に来てくださる。
「最期まで先生に診て頂けて、父も嬉しかったと思います。ありがとうございました」と伝えると
「いえいえ・・・最期の2日間、話も出来ない状態で申し訳なかったです・・・・
あと1ヶ月でも2ヶ月でも緩和病棟で過ごせたら・・・と思ってたんですけど・・・・」と
言葉をかけてくださる。

お清めが終わり、綺麗に整えて頂いた父の傍へ戻る。
入院中の荷物を片付けているところへ兄が駆けつけた。
兄もまた先生にお礼を述べる。

死亡診断書を受け取り支払いを済ませる。
荷物を車に運び、葬儀屋の到着を待つ。

1:20先生と看護師さんに見送られ、父と兄が葬儀屋の車に乗り
私は自分の車で後を追う。
駐車場代金¥6,600也、父と過ごした2日間をお金に換算されたようで悲しかった。


自宅に戻った父は赤ちゃんのような可愛らしい顔で微笑んで
帰宅できた事を喜んでいるようだった。
母と姉のお仏壇の前で安らかに眠っている。


もう痛くないね、もう苦しくないね。
本当によく頑張ったね。
お疲れ様でした、おとうさん・・・・・


葬儀屋さんが枕経の仮祭壇を作ってくれてお参りをする。
次々と葬儀の打ち合わせが進められる。
母と姉の時の記憶で進行はスムーズに。

葬儀屋が帰り、兄は別の部屋で仮眠を取る。
私は久しぶりに実家のお風呂に入り、父の横で添い寝した。
この時、既に朝の4:00.
お寺や四国の親族に連絡するには早すぎるので、1時間ほど横になる。
久しぶりに身体を横にしてみたものの一切眠れない。

心電図の音が未だ耳から離れず困った。
父の苦悶する顔を思い出しては、振り払うように隣で眠る安らかな顔を眺める。


おとうさん、本当に本当にありがとう。
話し好きだったおとうさん、たくさんの方々に賑やかに送り出してもらえるよう
告別式まで頑張るからね。

今夜は一緒に寝ようね、最後に甘えさせてね、おとうさん。


父との濃厚な時間が過ごせた事に感謝。
母と姉が突然逝ってしまい、高速を飛ばしても間に合わなかった分、
父との時間は神様からのプレゼントかな。

死が迫ってくる恐怖に怯えつつも、一生懸命明るく振舞った父。
心から尊敬しています。
ありがとうございました。


合掌

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